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マリオ真章 #212(LR_28)

「格納庫に行って、整備班を手伝いだ」
「は、はい」
 高橋は、体の向きを変えて今来た道を戻って行った。
 ブリッジの内に合わせてある通信機を操作して、医務室を呼び出した。覡が再びモニターに出た。
「今、大丈夫か?」
<ええ。多分。姉はともかく、ね>
 覡は、モニターの前で体をずらし、戒の方が見えるようにしてくれた。戒の方は、さっきまでと同様に手を忙しく動かしながら、鍼治療を続けていた。
「じゃあ、覡だけでもいい。格納庫へ行ってくれ」
<ええ、あそこぉ?>
「頼む。この通り」
 顔の前で手を合わせる。覡は、心底嫌そうな表情を浮かべたまま、じっとこちらを見つめている。その顔がどんな表情を浮かべようとも、夢見る乙女のように思えてならない。
<分かった。分かりました。行けばいいんでしょ>
「あ、ああ。頼む」
<終わったら、食堂のプリンおごって下さいよ>
「ええ?」
<行かなくてもいいんですか?>
 <マリンポップ>の食堂は、安くて美味いと隊員に定評だが、贅沢品というか「食べなくてもいい」デザートの類いは、少々お高くなっている。戦時下ということもあり、市場にもほとんど出回っていないプリンは、それだけで大盛り定食1回分の値段がするほどの高級品。僕も滅多に食べられない。
 だが、覡の表情からして、これを断ってしまうと高橋が一人で、グリーンバーグ他の隊員に混ざって任務をこなすことになる。
 あの柔和そうな新人のためだ。仕方がない。
「分かった。ただし、Sサイズ」
<ええ~。バケツサイズ>
 バケツサイズのプリンで、1日の食事代に相当する隊員もいる。使ってないとはいえ、手持ちが少ない身分としてはそれをポケットマネーで出すと、後が辛い。
「M。Mでどう?」
<いいえ。絶対にバケツサイズ>
 覡は、一歩も譲ることなく「バケツサイズ」と繰り返した。もう一回念を押した所で、もう一回「バケツサイズ」と帰って来ることは間違いない。
「分かった。飲む。飲むから、格納庫へ行って」
<はぁ~い>
 覡は、満面の笑みを浮かべて受話器を降ろした。通信機のモニターに映った最後の表情は、昼の連続ドラマに出て来る悪女のそれとよく似ていた。
「やられた……。まあ、良い。次だ。次」
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趣味で文章を書き続けて8年くらい? の学生です。
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