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マリオ真章 #214(LR_30)

 ヨースター島に上陸する前日の記録を見ながら、記憶を辿る。数日前だというのに、鮮明に、細部まではっきりと思い出せる。
 高々数日、数ヶ月前の記録が、遥かな時を隔てた出来事のようにも思えるのは、この数ヶ月の出来事が、余りにも多すぎるからだろうか。
 日誌から顔を上げ、空のカップを引き寄せた。鞄のポケットからコーヒーの元を取り出し、封を開けて茶色の粉末を入れる。すっかり気の抜けた、芳香の「ほ」の字もしない、カフェインを補給するためだけの一品。数時間前に入れたぬるま湯で溶かし、ミルクも砂糖も入れられないブラックを、空っぽになりつつある胃に流し込んだ。
 ブラックコーヒーの刺々しさを感じながら、日誌をめくる。日付は、戦闘の翌日。ヨースター島接岸の日――。

 O月Y日。天候、晴れ時々曇り。
 司令部からの伝令を頼りに海上を航行。昨日、多少の障害はあったものの、乗員はほぼ全員が無事に今日を迎えている。
 巨大な積乱雲の下をかいくぐり、大時化、大荒れの波も突破。赤緑のパタパタ大軍団も、<グリーン2>の回収を完了し、艦砲を撃ちまくって蹴散らして以後、追い掛けて来る様子はない。レーダーにも、それらしい反応は見当たらない。
 僕の目の前にある、環境の光学モニターは現在、気象班が観測用に映している外部の様子が写っていた。雨は降っていないものの、雲が多い。気流が安定していないのか、晴れたと思った次の瞬間にはどんよりとした灰色の空に。気分がなんとなく優れないまま、その場で伸びをする。
 そのままゆっくり身体を反らして行くと、扉の所でキノピオが汗を拭きながら戻って来るのが見えた。
「お疲れ様です」
「ああ。お疲れ」
 キノピオは自席に戻り、時計へ目をやった。
「当直、変わりましょうか?」
「いや。まだいいよ」
 半舷休息の交代まで、まだ10分ほど残っている。
「随分お疲れに見えますけど、本当にいいんですか?」
「ああ。大丈夫だよ。流石に、色々あって気疲れはしたけどね」
 身体を戻し、手前のドリンクを手に取った。口を付けてボトルを傾けても、中身は出ない。口を離し、そのまま軽く振ってみる。ちゃぷちゃぷと液体の入っているような音はするものの、重さはほとんど感じない。
 諦めて、ほとんど空のボトルをスタンドに戻した。辺りへ目を配ってみても、給水スポットはここにはない。
 艦橋を出て、食堂へ通じるエレベーターホールまで行けば、給水機が設置してある。そこには、シートよりは柔らかいソファもある。緊張するしかない艦橋とは比べ物にならないほど、ゆっくり出来る場所だ。もちろん、そこから食堂やレクリエーションルームに行けば、もっとリフレッシュ出来る。
 腕時計に目を落としてみても、まだ7、8分は早い。
 どうしたもんかと頭を巡らせていると、視界の端ではキノピオが、口の端をあげてこちらを見ていた。まだ休憩中の彼が何を考えているのか。そんなことは、気にしたくない。
「中尉」
 キノピオが口を開いた所で、シートから腰を上げた。今度は全身をほぐし、軽くストレッチをして、キノピオの方を振り返った。
「艦内の見回りをして来る。キノピオ、ここは頼んだ」
 キノピオは、さっきよりもはっきりとしたにやけた表情を浮かべた。
「分かりました。行ってらっしゃいませ」
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ども。仮面ライターです。
趣味で文章を書き続けて8年くらい? の学生です。
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