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マリオ真章 #215(LR_31)

 艦橋のことをキノピオに任せ、ブリッジを出る。
 食堂側のエレベーターホールに足を向けそうになった所で、扉が開いた。
「見回り、ですよね? 勤務の交代では、ない?」
 キノピオは、いやみったらしく言葉を紡いだ。頬と鼻の頭が赤い、脂肪の豊かな男のねっとりした言葉遣いは、無性に腹が立つ。
 穏やかな表情を崩さないよう、歯を食いしばって怒りを押し殺す。
「ああ、そうだ。まだ5分早い」
「そうですか。了解です。それでは、ごゆっくり」
 大きなマリのようなアフロが、戸口の向こうに吸い込まれ、自動開閉のドアが、それに合わせて閉じて行く。2、3本挟まれ――と思って見つめていても、正確無比なセンサーはそんな過ちも犯さない。
 踵を返し、真逆の方向――格納庫の方へ足を向けた。昨日の戦闘以来、何度か行き来してはいるが、主任のグリーンバーグが「忙しい」の一点張りで応対すらしてくれない。
 一晩経って、状況が変わったのかどうか。艦内の防衛を気にするのであれば、見ておいた方がいい。
 少しゆっくり目に角を曲がり、往来でぶつからないように気を配りながら、エレベーターまで辿り着いた。そこから格納庫までは、ゴンドラに揺られるだけ。
 背面のガラスの向こうは、やはり慌ただしく人も機械も駆け回っている。
 ゴンドラが到着し、扉が開く。
 まるで戦場のような轟音と怒声が、鼓膜を破かんと突き刺さって来る。
 引き締まった表情の整備員が右に左に、腰に手を当て、あるいは機材を持って走って行く。怒鳴っているとしか思えない指示が飛び交い、機械のパネルを触る整備員の額にすら、大粒の汗が次から次へと噴き出していた。
 なるべく邪魔にならないように、グリーンバーグの元へ向かう。
 探さなくてもいい。一番大きな声を張り上げ、格納庫全体へ視線を配り、一時も休むことなく唾を飛ばしている、年季の入ったツナギの男は一人だけ。
「グリーンバーグ」
 辺りの音が大きい分、自分の声も自然と大きく、怒鳴り声のようになる。
 グリーンバーグは手を止め、こちらに視線を向けると会釈を返した。傍にいたメガネの男――昨日応対したライディースに指示書と工具を手渡し、お立ち台から降りてこっちへやって来た。
「悪いな。手を止めさせて」
「本当にそうですよ。ヒヨッコどもの乗った証拠を消さにゃならんのですから」
「そうか。それは本当に悪かったな」
 グリーンバーグに、頭を下げた。今のこの忙しさはまぎれもなく、僕のせいだ。
「いいんですよ、中尉。頭を上げて下さい」
 グリーンバーグはその風貌に似つかわしくない、穏やかな表情で視線を作業場の方へ向けた。
「それを了承したのは私です。あんたのせいじゃない」
「そう、か?」
「そうですよ。それにこのくらい忙しくないと、退屈でしょうがねぇ。船に乗ってるだけじゃあ、腕も<ブーツ>も錆びちまいます」
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